CAHIER
坂道の向こうへ
歌を作りたいと思ったのはいつのことだったろう。たぶん15才の頃。その頃はプロになるなんて簡単に考えられる時代ではなかった。歌手は歌が上手い人がなるものだったし、音楽業界というよりは芸能界だったその世界は、素人からすれば遥かに遠い場所だった。それでも学校で習う音楽とは違うフォークやロックというジャンルは新しい楽しみを与えてくれた。自分の気持ちや日常の出来事をノートに綴り、guitarを弾きながら鼻歌のように節を付けていく。それを人に聴いてもらいたくなり、上手くもないのにコンテストに応募したりした。その段階でも、レコードデビューなんて思うわけでもなく、ただライブの臨場感を味わってみたいだけだったのだと思う。音楽はそんな風にいつのまにか自分の生活の重要な一部になり、気がつけば随分時が経つ。
渋谷の道玄坂にあるヤマハ渋谷店が44年の歴史に幕を閉じることになった。そこは単なる楽器店というだけでなく、情報発信、そして多くの音楽家の交流の場としての役割も担ってきた。guitarの弦を買うために、あの坂を歩いたギタリストはどれくらいいるのだろう。新しい楽器を手に入れて、大切にそうに抱えながら店を出てくる若者の姿も多く見た気がする。たぶん、あの場所は魔法の道具屋だったのだ。
有志が集い1月19日にSHIBUYA-AXで「ヤマハ渋谷店」に感謝を込めたライブが開かれる。そのライブだけのために歌詞を書かせて頂いた。たぶんその日一日しか聴くことができないものになるだろう。参加ミュージシャンの顔ぶれを見れば貴重なライブになることは間違いない。そんなイベントに参加できることを嬉しく思う。
それぞれに違う道を歩いてはいても、音楽に携わった者なら、一度くらいはあの坂を通ったのではないか。人生がrole-playing gameだとしたら、僕らはあの場所で間違いなく貴重で強力なアイテムとエネルギーを手にしてきた。そして、それはいままでも、そしてこれからも、かけがえのない財産である。
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